津島修三ブログ

カメラマン兼ライター津島/愛と妄想のブンガク的空間

オトナの恋

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某日、N子に電話をしようと思い立った。
N子とは、今でもたまに思い出したようにメールを交わすこともあるが、どちらかと言えばもう“過去形”の友人。
気まずく別れたわけではないが、楽しかった想い出を胸の奥にしまって、このままフェードアウトしてもいい関係だと、自分では思っていた。
かつては、「久しぶりに会えないか?」と声をかけると、何はさておき都合をやり繰りして出かけてきてくれたものだけど、いつのころからか、「ごめんね、その日は別の予定が入っているのよ」と、“不都合”を口にするようになった。
ほんとうにそれが“やむを得ない事情”なのか、あるいは“会いたくない口実”なのかは、あえて詮索しなかった。
少なくとも、ひところのような“会いたい気持ち”が薄まってきているような気配は、彼女の言葉の行間ににじんでいるように思われた。
ボクも元々、こういうことで深追いしたりややこしいことになったりするのは嫌いなほうなので、「それならそれで結構ですよ」と、一旦気持ちをリセットするのである。

電話をしようと思ったのは、たまたま彼女の居住地の近くまで行くことになったからだ。
特に(何が何でも)会いたいとか話をしたいとか声を聞きたかったということではなく、せっかく近くまで来ていながら一言も声をかけず帰るというのも、それがあとから分かったら却ってぎこちない話になるかなという、“オトナの斟酌”からだ。
しかし、ことはスムーズには進まない。
ボクはこれまでに自分の携帯を何度も水没させていて、すでに彼女の家の電話番号はメモリーから消えている。
彼女は携帯を持たない人なので自宅に電話をすることになるが、電話帳で電話番号を探すにしても、彼女は世帯主ではないから、まず彼女のご主人の名前を思い出さなければならない。かろうじて思い出して電話帳をくくってみると、なんと同姓同名が二人いる。
しょうがない、こうなったら一か八かである。最初にかけた番号がハズレだったら詫びればいいだけだ。
ああ、オレは何をやってるんだろうな…と内心思いながら、田舎道で見つけた電話ボックス前にクルマを止めて、電話帳に載っている番号を携帯に打ち込んでみる。

「はい、○○です」その声は、まぎれもなくN子だった。すぐに分かった。
「津島です」
「あら、珍しい」そう、N子は言った。
珍しいのだ。生涯声を聞く機会がないままになってもおかしくない相手からの電話だから、それは珍しいのだ。
「いえね、急に近くまで来ることになったもんだからね、黙って素通りするのも却って失礼かなと思って、時間でもあればお茶などいかがかなと」
「前もって言ってくれればよかったのに。これから出かける用事があるのよ」
「あ、いいんだ。気にしないでくれ。全然予定が立てられない旅だったから、前もって連絡…ってわけにもいかなかったんだ。こっちまで回れるかどうかも分からなかったし。とりあえず近くまで行ったら久しぶりに電話してみようかと思っただけだから」

それから二言三言、ボクらは近況報告など交わした。
そうして、出かける用事があるのならなおさらのこと、できるだけ早くこの電話を切ろうと思った。
「それじゃね、またいつか…」

「ええ、やっぱダメなの?! せっかく近くまで来てるのに、どうしても会えないの? そりゃあ残念だなあ」などと、少しおちゃらけて、おおげさに落胆してみせるのも、恋のテクニックの一つではあるかもしれない。
いやいや、しかし、そんな技巧に頼る恋など、もう、すまい。
オトナの恋は、淡泊をもって旨とすべし…である。

N子への短い電話は、夏の日の陽炎のように、あっけなく切れた。
そして、発信履歴に残ったその電話番号を、そっとアドレス帳に引き写すのである。



テーマ:写真にコトバをのせて - ジャンル:写真

  1. 2008/11/26(水) 15:47:01|
  2. OLYMPUS E-510
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